BRAND STORY|ブランドストーリー

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守矢義衛 

守矢武夫商店
〒143-0012 東京都大田区大森東3-8-26 
Tel: 03-3761-7983

 2017.11.8
取材

義衛さんの父で創業者の守矢武夫さんは、信州諏訪の出身。『そもそも』に連載中のエッセイ「諏訪式。」の中で、冬場の農閑期に大森の海苔問屋に出稼ぎに行った諏訪人について紹介する予定。

炊きたてのほっこりごはんをパリッとした海苔で巻いて…。

立ち上る海苔の風味とごはんの組み合わせは、もうそれだけでどんなご馳走にも負けない最強タッグ。もし、食卓に海苔がなかったら…。と考えると、おにぎり、巻きずし、ざる蕎麦だってずいぶん淋しいことになる。海苔の存在に一目置いてはいても、海苔選びについては他の食材と比べて無頓着だったことを、〝海苔のふるさと〟東京大森で知ることとなった。

「食べ比べてみて」と、唎き酒ならぬ〝唎き海苔〟を勧めてくれたのは、大森の海苔問屋「守矢武夫商店」の2代目ご当主の義衛さん。差し出された六つの容器には、それぞれ異なる風味の海苔が入っている。私の舌でも香りや硬さ、口どけなど、明らかに違うとわかる。

 

 

「必ずしも高いものがいいわけではなくてね。子供さんがたくさんいる家庭なんかは、安い海苔でも毎日食べられる方がいいし、寿司屋や蕎麦屋で使う海苔はそれぞれ違うからね。」と義衛さん。

海苔には等級があって、もちろん値段の高いものから安価なものまで種々あるわけだが、使う人の用途や好みに合わせた品を提供するのがかつての問屋の腕の見せ所だったという。百貨店の贈答品として使う海苔、寿司屋が使う海苔、家庭でおにぎりに巻く海苔ではおのずと異なる。そこで産地や採れる季節などで異なる個性を持つ海苔を仕入れ、火入れして客の好みや求めに応じた品を提供するのだ。

 ところが近頃では、そうした「目利き」が腕を発揮する場面や、互いの信用で取引をする機会が減ってきているという。

守矢義衛さん

「今は家庭でもコンビニおにぎりが多くなっているし、寿司屋も回転寿司が一般的になったでしょ。贈答品用の海苔は出なくなったしね…。」

 全国で同じ規格の海苔を大量に消費するコンビニおにぎりの台頭は、今や海苔の相場の動向をも左右するまでになっているともいう。大量消費の陰で、商品の個性や特長を知る個人商店は、その本来の力を発揮することが難しくなっているそうだ。海苔の世界のみならず、世の中の様々な分野で「目利き」がいなくなることは、多様で豊かな生活文化が急速に失われつつあることを物語っている。

この道60年、周囲からもベテランと称される義衛さんは「目利き? いや、まだまだ精進ですよ。海苔の世界は奥深くてね…」と、謙虚で遠慮深い。こうして、一本筋の通った人々に出会うと、気持ちも引き締まる。「ものを買う」という行為を、もっと丁寧にしていかなければ…と思わされた一日だった。

(文章確認:守矢義衛 氏)

昔ながらの店構えが懐かしい
取材・執筆者
ささらロゴ 太(印刷)
小倉 美惠子 ささらプロダクション代表/作家
1963(昭和38)年、神奈川県川崎市宮前区土橋生まれ。アジア21世紀奨学財団、ヒューマンルネッサンス研究所勤務を経て、2006(平成18)年に(株)ささらプロダクションを設立。2008年、映画「オオカミの護符―里びとと山びとのあわいに」で文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、地球環境映像祭アース・ビジョン賞を受賞。2010年「うつし世の静寂(しじま)に」を劇場公開。2011年「オオカミの護符」(新潮社)を上梓。2017年、川崎市文化賞受賞。

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