「どんど焼き、復活することにしたんですよ!」

山田佳一朗さんの言葉は、この川崎市宮前区に「どんど焼き」が甦ることを意味し、しかも映画『うつし世の静寂に』のクライマックスに登場する「とんもり谷戸」がその舞台だというのです。それはそれは小躍りしたいほど嬉しい知らせでした。

ここ多摩丘陵は「どんど焼き」が盛んに行われた地域ですが、開発によって人家が密集したことから、火を使う行事は危険なものとして、次々にその伝統が閉じられていきました。もちろん、暮らしが様変わりして、行事を行うことが負担になってきた、行事の意味がわからなくなった…という背景もあります。山田佳一朗さんの暮らす宮前区平地区では、5年ほど前に、ついにその幕を下ろすことになったそうです。

「どんど焼き」とは、小正月(1月15日)に、お正月のしめ飾りやダルマ、書初めをした紙、あるいは一年間家を守って下さった古いお札などを近隣の人々が持ち寄って、お焚き上げをする行事で、竹や木で櫓を組んで火を入れる、いわば「巨大な焚き火」です。その火で焼いた団子を食べると風邪をひかないと言われ、小さな子供でも枝に刺した団子を燃え盛る火であぶり、熱々の団子に砂糖醤油を「ジュッ」としてかぶりつきます。火は刻々と勢いを増し、夕闇に燃え上がる赤い炎が人々を照らし出す頃には、すっかり気持ちが高揚し、一体感に包まれるのです。

小正月には、日本列島各地で「どんど焼き」に似た行事が行われ、由井英の故郷・信州川上村でも、やはり子供たちが中心になってお焚き上げをする「かんがりや」という行事があり、忘れ難い思い出なのだといいます。

1月14日、ウズウズしながらとんもり谷戸に出掛けてみると、そこにはバーベキューコンロに火を焚く、住宅街での新しい形の「どんど焼き」の姿がありました。それでも、しめ縄などの正月飾やダルマを携えて来る人や、目を輝かせて枝に刺した団子を火であぶる子供たちが集っていました。伝統行事というと、古くから土地に根差したコミュニティ中心に行われることが多く、新住民の人はなかなか入り込めないという声を聞くことが多いのですが、新生「どんど焼き」は、誰でも参加できるオープンな雰囲気に満ちていて、これから大きく育っていく予感がしました。 

「できることならもう一度…」という思いは、それぞれが持っていても一度止めてしまった行事を復活させることは、至難の業といえるでしょう。

その中で、なぜ佳一朗さんたちが復活を実現できたのか…。地元の農家の長男でありながら、国際的に活躍するデザイナーでもある佳一朗さん。1月20日に始まるささらプロダクションの「土曜日の会」では、彼をゲストスピーカーとしてお招きします。さまざまなお話の中に、そのヒントがあるかもしれない。楽しみです。

 

取材・執筆者
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小倉 美惠子 ささらプロダクション代表/作家
1963(昭和38)年、神奈川県川崎市宮前区土橋生まれ。アジア21世紀奨学財団、ヒューマンルネッサンス研究所勤務を経て、2006(平成18)年に(株)ささらプロダクションを設立。2008年、映画「オオカミの護符―里びとと山びとのあわいに」で文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、地球環境映像祭アース・ビジョン賞を受賞。2010年「うつし世の静寂(しじま)に」を劇場公開。2011年「オオカミの護符」(新潮社)を上梓。2017年、川崎市文化賞受賞。

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