「樺細工のことは全く知らなかったんです」と山田佳一朗さんは言った。秋田県の角館は武家屋敷が建ち並び、しだれ桜が名所の歴史ある街だという。樺細工には「オオヤマザクラ」の皮を使うそうだ。

佳一朗さんはまず、角館伝四郎六代目社長の藤木浩一さんや職人たちと共に、桜の木がある山の中に入った。木が水を含み、皮が剥がれやすい夏の時期に山に入り、オオヤマザクラの皮を自分でも剥いでみた。現地の方に教えを請い、伝統的な技術と人々の誇りを理解していった。

山田: 皮を剥ぐと木が死んでしまうのではないかと思うかもしれないけど、部分的に取る分にはまた生えて来るんですね。むしろ、一度剥いで再び生えてきた皮は『二度皮』と言って、コルク質になり高級な素材になるんです。

山田: 右側が原皮、これを削ってあげると茶色い層が出て来る。それをきちんと磨いてあげると光沢が出てくる。それを円筒状の型に巻きつけていく。膠で接着し、高温で熱したコテで圧力を掛けていく。『型もの』と言う手法ですが、これが角館でしかできない。皮を貼るだけならどこでもできるが、円筒状に貼り合わせる技術がない。

円筒状の型に皮を巻きつけカットすることで、茶筒の四つの部分が一度に作れる。佳一朗さんは、型に巻かれたパーツを一つ一つ外しながらみんなに見せ、丁寧に説明した。ひと巻きの皮から四つのパーツができるのは理解できるが、実際にそれを作るとなるとかなりの技術がいるのではないかと思う。パカ、パカと茶筒が分割される様子は、まるで手品でも見せられているように鮮やかだった。

山田:この伝統的な技術が理解できないと茶筒のデザインができないんです。

それから佳一朗さんはどのようにデザインをしていったのだろうか。改めて、樺細工の技法の素晴らしさに感動したという。デザインの観点からしても全く変えるべき点が見つからなかった。唯一、自分が手を加えられる箇所があるとすれば、色だった。従来の茶筒に代表される樺細工は、どのメーカーのものも桜の皮の飴茶色、ほぼ一色といった様子だった。

そこで茶筒の四つのパーツをそれぞれ別の材で作り、四つの輪切りにし、それをシャッフルすることで異なる木肌の色が縞模様に映え、モダンな新しい茶筒に仕上げた。何よりも佳一朗さんが大事にしたかったのは、角館の伝統的な樺細工の技法だったのだろう。様々な材質の皮を扱うことによって、むしろ角館ならではの独自の技術が発揮された。結果的にどのような木材の材質であっても角館の技術が応用でき、高い技術を証明することになった。さらに良いことがあった。四色のうち、樺を一色に限定することで、かえって樺の存在感が引き立った。そこから帯筒のように、着物の帯のように樺の木肌を細く、粋に見せる茶筒も生まれた。

  • 輪筒
  • 帯筒
    着物の帯のように見えるのが樺の皮

蔵を改装し展示会場を設えた。広報にも力を入れ、見本市や展示会に積極的に出していった。徐々に認知されるにつれて海外にも展開し、かなりの評判を得たという。

すると新たな動きが起きた。若い女性スタッフが地元から入って来たのだ。彼女たちは素直に「地元にある伝統工芸に携わりたい」と言って来たという。海外に展開する上で、輸出業に携わるプロフェッショナルも加わり、結局、秋田角館の内外から多様な人材が集まって来た。

会場からの質問が上がった。

Q:若いスタッフも入ってくるようになったのは、やはりデザインが変わったからでしょうか。

山田: きっかけはそうですが、デザインの力だけではありません。社長がとても心の広い方だったんですね。『山田さん、それやってみようよ』って。そして出来上がったものは、本当に一生懸命、責任を持って営業する方でした。デザインを生かそうとしてくれたのだと思います。新聞などのメディアで見てくれた若い人たちが「秋田にもこういうものがあるんだ」と知って、来てくれたという経緯があります。

Q:地域に入って、その土地の方と仕事をする上で大切にしていることはありますか。

山田: とにかく相手を理解しようと努めること。そうしているうちに、相手が自分のことを認めてくれるようになる。樺細工は、100%垂直なんです。皮を筒に貼っていくわけですから。そこに角館の技術と誇りがあるわけです。仮に、茶筒を斜めに作ってみましょうと提案しても、受け入れてもらえないでしょう。垂直だから皮をきちっと締めていけるんですね。そこを理解した上で職人に提案していくと、耳を傾けてもらえるのではないでしょうか。

佳一朗さんのデザインは、自分の中からひねり出し、生み出されていくものではなく、自分と自分の外との関係性の中で、ふんわりと生まれてくるものなのかもしれない。デザインが生まれるプロセスはとても自然だ。それはきっと、仕事の中で研鑽を積んで培って来た処世術ではなく、ご本人の人柄によるものだろう。デザインにしても、話ぶりにしても、問いかけに対する答え方にしても、不思議な温もりがある。

話はやがて、彼の生まれ育った地域での取り組み「花ノ停留所」の話になっていった。

 

みんなでほのぼのお昼ご飯
佳一朗さんの隣で、ぐっすりお昼寝をしているのが角館伝四郎六代目社長の藤木浩一さん

(文章確認、写真提供:山田佳一朗 氏)
(会場での写真撮影:小倉美惠子)

 

取材・執筆者
ささらロゴ 太(印刷)
由井 英 映画監督/ささらプロダクション

2006(平成18)年に、小倉美惠子とともに(株)ささらプロダクションを設立。2008年、映画「オオカミの護符―里びとと山びとのあわいに」で文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、地球環境映像祭アース・ビジョン賞を受賞。2010年「うつし世の静寂(しじま)に」を劇場公開。現在、映画「ものがたりをめぐる物語」を製作中。


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