「両親がお花づくりをしているんです。」と佳一朗さんは言った。三人兄弟の長男で農家を継がず、武蔵野美術大学に入った。2004年、30歳のときミラノサローネに作品を出品し、それをきっかけにいくつかの作品が商品化に繋がり、プロフェッショナルとしてのデザイナーの道が開かれていった。しかしそれまでは大学で長らく研究室の助手として勤めていたため、本格的なデザインの経験はなかったという。

山田 「花は、生ものなので、1ヶ月も経つと価値が無くなってしまうんです。売れ残ったりするんですね。」

お花づくりは、文字どおり「花が開く」までに、相当な労力と細かな気遣いを必要とする過酷なお仕事のようだ。堆肥を作り、土作りも家族で行なっている姿がスクリーンに映し出された。そこからタネを蒔いて、発芽させ、入念な日々の手入れも怠らずにやっていく。そうやってご両親が朝から晩まで働きつづけているのを子供の頃からずっと見てきた。

山田 「ある時、うちの目の前にバスが通る(バス停もできる)と、そんな話が持ち上がったんです。だったらここで売ったらどうかと。子供たちは三人いるんだし、直売所を作って花を手分けして売ろうよ。」

2011年10月、家の敷地を囲む塀を一部壊し、バス停に続く道を作り始めた。バスを乗り降りする人たちや通りがかりの人たちにも立ち寄ってもらおうと、花壇を新たに設えた。兄弟三人と佳一朗さんの奥さんの真由美さん、息子の土筆(つくし)君など家族総出の作業だった。入り口に「やまだ花園直売所」という名前の看板を立てた。縁側のそばにあったテーブルを持ってきて、その上にご両親が作った花を置いた。何から何まで家にあるものを集めた「手作り感」たっぷりのスタートだった。

山田 「そうしたら、お客さんがすぐに入ってきたんですね。お客さんが来たのに、お釣りも用意してなくて… (一同、笑い)大失敗ですよ。」

  • バス停に続く壁を壊した。
  • すぐにお客さんが来てびっくり!

近所のお菓子作りの上手なお母さんや、美味しいコーヒーを出すお店に声をかけて、徐々に仲間が増えていった。隣町で行われたイベントにも積極的に出店し、そこからも新しい人の出会いが生まれることになった。2013年の秋、やまだ花園直売所から「花ノ停留所」に名前を変えた。両親の作ったお花を元にした試みが同じ地域に住まう人々の拠り所となっていった。

山田 「私は全然知らなかったんですけど、地元にはいっぱい魅力的な人たちがいるんですね。」

やがて、仲間に声をかけて「花ノ停留祭」を始めるようになると、アクセサリーを作っているお母さんたちや街の小さなお店屋さんから「参加したい」という声もかかるようになった。

会場から質問が上がった。

Q:今後、この取り組みが何かの事情で、例えば家族の事情で無くなってしまうのではないかと考えることはありますか。

山田 「私はむしろ自分がいなくなった方がいいんじゃないかと思っているんですね。個人的なものがなくなっていく方がいいんじゃないかと。もっと公のものにしていく。公にしていくんだけど、そこに個人的なリソースを提供していく。無くなることについては全然怖くはないです。」

Q:自宅を解放することに対して、家族の中で不安とかためらいのようなものはなかったのですか。

山田 「なかったよね。(奥さんに聞く様子で)」

真由美さん(奥さん) 「100%何もないわけではないんですけど、やっぱり知らない人が入って来て、私たちの日用品は一体どうしたらいいんだろうという話し合いは一回したことはあります。ただ、あんまり置いてないよねっていう話になって、うんそうだよねという感じになりました。(笑)」

Q:でも、座敷まで解放することに対して抵抗はなかったのですか。

山田 「実は私は、ないんですよ。なぜかというと、例えば正月は家の座敷に獅子舞が来るんですよ。基本的に座敷というのは自分たちの空間ではないんです。家族の空間ではなくて、誰か他の人のための空間なんですね。そもそも家の作りがそうなっているし、私はそうやって暮らして来たんです。」

 

家の座敷で舞う獅子(佳一朗さんのご自宅)

 

「子供は親の姿を観て育つ」というが、実は子供は親だけでなく、地域の人たちとの繋がりの中で成長していくのではないか。かつての村落社会では縁側に座って日向ぼっこをしている古老が近隣の子供に温かな眼差しを注いでくれていた。子供たちはそうした古老の家に気軽に遊びにいったものである。佳一朗さんには幼い頃、それに似たような体験があり、それがお仕事にも花ノ停留所にも生かされているのかもしれない。そして何よりも自分が体験した「地域の温もり」を、いま同じ地域に住む子供たちに伝えたいのだと思った。(全3編 終わり)

  • 土筆くんもお花の土作りをお手伝い。
  • 綺麗なお花畑の奥にバス停が見える。

(文章確認、写真提供:山田佳一朗 氏)
(会場での写真撮影:小倉美惠子)


佳一朗さんには会の事前に、「自分にとって大切な一冊の本」を紹介してもらっていた。それを手がかりにさらにいろんな話を進めていく予定にしていたのだが、時間がかなり押してしまったためにほとんど本についてお話を聞くことができなかった。せめて書名だけはここで上げておきたい。いずれ、今後の「土曜日の会」で話題になると思う。

 

 

 フォークの歯はなぜ四本になったか

  ヘンリー・ペトロスキー 著 忠平美幸 訳
  平凡社

 

 

取材・執筆者
ささらロゴ 太(印刷)
由井 英 映画監督/ささらプロダクション

2006(平成18)年に、小倉美惠子とともに(株)ささらプロダクションを設立。2008年、映画「オオカミの護符―里びとと山びとのあわいに」で文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、地球環境映像祭アース・ビジョン賞を受賞。2010年「うつし世の静寂(しじま)に」を劇場公開。現在、映画「ものがたりをめぐる物語」を製作中。


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