おしょろさま。お盆に祖先の霊をお迎えするための「精霊(しょうろう)棚」のことを、そう呼んで親しんできました。家の竹藪から手ごろな竹を伐り出して、父や祖父が作っていた精霊棚。四隅に竹の支柱を立て、藁の縄を張り、戒名が描き込まれた掛け軸やほおずきを吊るします。精霊が召し上がる食事を用意するのが祖母と嫁である母の役目。私は見よう見まねでお盆のお料理を覚えました。

家の門口に火を焚いて、キュウリやナスの馬でご先祖をお迎えするとき、幼かった夏の夕暮れを思い出します。あの頃、一緒に霊をお迎えした祖母と祖父。今は、迎えられる存在になりました。「今年もちゃんとお迎えしてくれて、ありがとう」と言ってくれているような気がして、毎年の行事を続けなくちゃ…と思い直すのです。

文:小倉美惠子

SomoSomo 3 【風土】 盆棚|おしょろさま

盆棚 手をあわせる

写真(以下同様):映画「うつし世の静寂に」より

日本各地ではその土地ならではの「おしょろさま」の作り方があるでしょう。ここでは、映画「うつし世の静寂に」で取材した神奈川県川崎市宮前区初山のおしょろさまをご紹介します。

1. 竹切り

  • 竹切り
  • take2
 
おしょろさま作りは竹切りから始まります。かつて竹に限らず棚で使う材料はすべて家の周りや村内で手に入れることができました。初山を含めたこの界隈では近世の頃からタケノコの名産地として知られていました。今でも家の裏山には竹藪を残している家があります。竹はおよそ3mの高さに揃え、上の3分の1ほどは枝葉を残し、あとはすべて切り落とします。

2. ご先祖の乗り物|茄子・胡瓜

  • 縁側での作業
  • 乗り物とお水

乗り物が無くてはご先祖をあの世からこの世にお迎えすることはできません。乗り物は牛と馬です。それぞれになぞらえた茄子と胡瓜に足をつけます。このとき足に使ったのは苧殻(おがら:麻の茎)でした。尻尾はこの写真からは見づらいですが、ネコジャラシです。かつてのお百姓の暮らしにとって牛と馬は大切な家畜でした。牛や馬の労力を借りることなしにこなすことのできない農作業はたくさんありました。この家の周りにも馬頭観音があり、かつてお世話になった家畜の石碑に手を合わせて祈る姿が見られました。家畜といえども、家族の一員という気持ちが強かったと思います。奥に見える深皿の上に敷かれた里芋の葉にはナスの細切れが載っています。これは牛馬が食べる飼い葉で、紫色の禊萩(みそはぎ)で、牛馬や飼い葉に水をやります。

縁側で作業していることに注目してください。縁側は日本の家屋を考える上で欠かせない特徴を持っていると思います。蝉が鳴き競う真夏でも縁側には時折心地良い風が吹き、こうした小仕事をするには本当にいい場所だと思いました。

さあ、ご先祖の乗り物が完成しました。

3. おしょろさま(盆棚)作り

棚 正面 野菜吊るす

この段階ではおしょろさまはまだ完成していませんが、まず何が目につきますか? やはり特徴的なのは手前に吊るしてあるお供え物の野菜でしょうか。よく見ると藁のより合わせに挟んで吊るしてありますね。野菜は蓮、ほおずき、青柿、さつまいもです。その奥にはご先祖の位牌が並べてありますね。さらにその後ろには掛け軸が見えます。様々の仏様を描いた掛け軸を掲げるのもこの土地のおしょろさまの特徴でしょう。そして棚の四方の柱に竹が縛り付けてあるのが見えますか。棚の天辺は屋根のように笹が垂れ下がり覆っています。最初に竹を切ったのはこの様に使うためだったのです。

こうして竹に囲まれた棚をじっと見ているといろいろと想像します。盆棚は単に先祖の居場所を表しているのではなく、この世とあの世をきちっと分ける結界の意味もあるのではないでしょうか。盆棚の設えからは、家族にとって血の繋がった先祖にもかかわらず、「あの世の霊とこの世の人間は分けなければならない」といった意識が働いているように感じるのです。特に先祖を棚に迎えた後、容易に棚の中に(あの世の世界に)人間が入り込んではいけない雰囲気を土地の人々の行いからも感じました。四方に巡らした竹や縄は決して飾りではなく、あくまでもこの世とあの世の境をきちっりと示すものなのではないでしょうか。

4. おしょろさまが設えられる場所とは

  • 盆棚 位置
  • megurizizou-i
  • megurizizou-ka

映画の撮影をしていると、例えばある行事のある行為に対して土地の方にそのようにしている理由を尋ねても、わからないことがあります。しかし人は何の理由もなしに形として表したり、行為として残すことはないでしょう。時代が様変わりし暮らしぶりが変化する中で、いつの間にかその意味を受け取ることができなくなったのかもしれません。

上の左の写真を見てください。撮影をしながら私たちが不思議だなと思っていたのは、おしょろさまを設える場所です。なぜこの場所なのでしょうか。座敷の真ん中ではいけないのでしょうか。土地の人に聞いてもその理由はわかりませんでした。しかし彼らは毎年同じ場所におしょろさまを設えます。

次に真ん中と右の写真を見てください。これは同じ川崎市宮前区で行なわれている「巡り地蔵」という行事です。厨子の中にはお地蔵さんが安置されており、盆棚と同じ場所に設えてあります。こうしてみると、縁側に最も近い襖を背にしたこの場所に、我々の先祖はある特別な配慮をもっていたのではないかと想像したくなります。映画「うつし世の静寂に」では、巡り地蔵と比べながらこの場所についての考察をしていますので、是非ご覧ください。

5. 迎え火

  • 藁へ火付け
  • 先祖を乗せて家へ

家の前の道(家の敷地の外)などで藁で焚いた火や煙を目印にして、先祖は自分が暮らしていた家を見つけるといいます。火を辿ってあの世から降りてきた先祖の霊は、茄子や胡瓜に乗り、家の中の盆棚、おしょろさまに迎えられます。牛や馬に乗った先祖はどういった道筋を通り、盆棚に迎えられるのでしょうか? 家の玄関を使っては入りません。玄関は人間の出入り口だからです。ここで再び登場するのが縁側です。そう、縁側に吊るされた提灯の火を頼りに、家の中に入ると考えられています。右の写真には縁側に提灯が下げられているのが見えます。実は、巡り地蔵のお地蔵さんも玄関からではなく縁側から迎えられます。つまり縁側は神仏の出入り口としての役割も担っているのではないでしょうか。ここにも人の世とあの世をきっちり分けている意識が感じられます。あの世の存在に対する深い配慮があると同時に、畏れも感じているように思えるのです。

6. 先祖とともに入ってくる霊

  • 提灯と縁側と棚
  • 棚の前に人

先祖を迎え入れ、夕暮れ時になると親戚がお参りに来ます。そして、食事を共にします。ところで、先祖と一緒に来てしまう霊がいることはご存知でしょうか。先祖の霊だけを迎えたいと思っても、それは人間の勝手な都合というもので、そうはうまくいきません。昔の人は先祖の霊に伴いあの世からは様々な霊がくっついてくると考えたようです。こういう考え方は本当に面白いですね。どういったことから、こんなに豊かな想像力が生まれてるのでしょうか。先祖の霊と一緒にきた霊は家に災いをもたらす少し「厄介な霊」なのですが、きちんと「迎えている」ところがさらに面白いです。下の写真をご覧ください。

陰膳

棚の前に下げられた茣蓙(ゴザ)をあげると、お膳が一つ、見えないところに、供えてありました。このお膳は「厄介な霊たち」へ供えたものです。家に災いをもたらす存在はできるだけ遠ざけたいと思うのが人情でしょうが、昔の人はそうした霊が家の中に入るのを拒んだり、家の外に払い出したりするのではなく、むしろきちっと迎えてもてなしているところは、やはり注目したおきたいです。棚の下に隠されたお膳ひとつからも、いろいろなことを想像することができます。

7. 終わりに… 縁側とは

  • 座敷に人
  • 外からLONG

お盆のおしょろさま作りを紹介しながら、縁側の特徴的な使い方にも注目してみました。縁側は家にとって完全な外側でもなく、そうかと言って完全に家の中にあるわけでもありません。逆の言い方をすれば、家の外としての役割も内としての役割も持っていると言えます。そう考えると、おしょろさまを設える場所が納得できます。というのはおしょろさまの位置はまるで家の外を意識しているように縁側に最も近く、しかも座敷の隅ですが家に付随しているのです。先祖といっても厄介な霊を伴ってくるような有難くも恐ろしい存在ですから、おしょろさまの結界の中に収まっていてもらわなければなりません。ですから家の真ん中まで入ってきては困るのです。もし昔の人がそう考えたとしたら、襖を背にした縁側に最も近いあの場所が最適だと私には思えるのです。先祖への配慮はまさに絶妙な按配です。

お盆の行事も一つ一つの行動に注目してみると、いろんなことが想像でき面白いです。あなたの地方のおしょろさまにもいろんな面白い点が見つかると思います。この御宅のご先祖はお土産を牛と馬に乗せて、この世の世間話もたくさん耳にし、送り火を炊いてもらいあの世に戻ったそうです。よかった、よかった。あの世から来たものが、いつまでもこの世に留まっていては何かと困りますから。気持ち良くお帰りになっていただかないと。

文:由井 英(映画監督)


先祖を家の縁側からお迎えする姿や盆棚の設えの様子などは、映画「うつし世の静寂に」で詳しく描いています。どうぞご覧いください。ささらプロダクションのウェブストア Tamaca にて販売中。

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