まずは物語を簡単に紹介したい。掲載文から抜粋要約したものです。

常念坊物語
ある日、村人は白い光の玉が有明山から乗鞍岳(まゆみ岳)の中腹に飛んできたのを目撃します。村人は何か不吉なことが起こらないかと心配します。しばらくして、里に下りてきては悪さをしていた八面大王が打ち取られたという噂がふもとの村に広がります。打ち取ったのは、坂上田村麿。光の玉は八面大王の一番の子分、常念坊という鬼だと村人は考えます。念仏を唱えるという珍しい鬼です。しかし村人が心配するようなことは何も起こりませんでした。

ある年の暮れに、村に市がたちました。道の両側には反物や油、酒など年越しに必要な品々が所狭しと並べられています。市はたくさんの人で賑わいました。日が暮れて寺の鐘が鳴り、村人が店じまいを始めたその時、「酒をくれ」と徳利を出す者が現れます。

酒屋の主人が振り返ると、ぼろぼろな袈裟を身に纏い、杖をついた年老いた坊さんが立っていました。髪の毛はぼさぼさで背中まで垂れています。目はギラギラとして主人を睨み返しています。坊さんは手に持った徳利を主人に差し出し「五升入れてくれ」といいました。

「お坊さん、ご冗談をおっしゃっちゃ困ります。これは五合徳利です。五升なんてとても入りません」と主人が断ると、「なんでもいいから、文句を言わず五升入れてくれ」と坊さんは大声で怒鳴りました。

主人は仕方がなく徳利に酒を入れ始めました。ところが不思議なことにお酒は小さな徳利にどんどん入っていきます。終いにはすっかり、五升の酒が入ってしまいました。坊さんはカラカラ笑うと、闇の中へ消えて行きました。

それから村に市が立つたびに、年老いた坊さんが現れるようになりました。そこで村の若衆が後をつけて正体を確かめようとします。坊さんは年寄りと思えないすごい速さで歩き、まゆみ沢を抜けて霧が立ち込める岩山へと吸い込まれるように消えました。

若衆からその話を聞いた村人は八面大王に打ち取られ、まゆみ岳に白い光の玉となって飛んできた常念坊だろうと言います。それから村ではまゆみ岳のことを常念岳と呼ぶようになりました。山の呼び名が変わると常念坊は姿を見せなくなりました。


物語はもう少し続きますが、ここまでにしておきます。次回、私がこの物語を面白いと思った点を三つ挙げます。みなさんも面白そうと思ったポイントを考えてみてください。

【つづく…】

取材・執筆者
ささらロゴ 太(印刷)
由井 英 映画監督/ささらプロダクション

2006(平成18)年に、小倉美惠子とともに(株)ささらプロダクションを設立。2008年、映画「オオカミの護符―里びとと山びとのあわいに」で文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、地球環境映像祭アース・ビジョン賞を受賞。2010年「うつし世の静寂(しじま)に」を劇場公開。現在、映画「ものがたりをめぐる物語」を製作中。

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