アカデミック版DVDを購入した人たち【1】

購入:村田町歴史みらい館(宮城県柴田郡村田町)
お話:石黒伸一朗 氏(村田町歴史みらい館 専門員)
聞きて:由井 英(映画監督・ささらプロダクション)

由井:まずはアカデミック版DVDのオオカミの護符を購入された理由をお聞きしたいのですが。

石黒:東北でもオオカミが描かれた護符を発行している、または発行されていたことがある神社などが10社ほどあります、基本的には火防、盗難除け、イノシシや鹿の害獣除けなど武蔵御嶽神社や三峯神社と同じようなご利益をうたう信仰ですが、それを知って頂く良い機会と考え、オオカミの護符を歴史みらい館で上映したいと思ったのです。

石黒伸一朗 氏


由井:今日も大勢の方にご来場頂き、聞くところによりますと座席数を増やしても予約をお断りせざるを得ない状況であったそうですが、最近のオオカミやオオカミの信仰に対する人々の関心ついてはどのように受け止めていらっしゃいますか。

石黒:人によってオオカミに対する関心は違うと思います。今日の展示会のアンケートにもありますが、まずはオオカミに対する信仰を知らない人が結構いらっしゃり、そういう関心を持って来ている人がいます。次に関東のオオカミ信仰の神社を実際に参拝して、すでに興味を持って来ている人もいます。最後に、オオカミの護符を集めている人もあり収集する立場から情報を知りたいという人、およそその三つに分けられるのかなと思っています。

全体的に言えることは、ニホンオオカミは絶滅したと言われていますが、その理由を知りたいという気持ちがあるようです。私の方の調査でも、三峯信仰に関わる石碑が出て来たり、護符の版木が出て来たりと、オオカミやオオカミの信仰が実は身近な存在としてあったということがわかりますが、けれどもオオカミという動物は絶滅したと言われている。身近な存在だけど知らない人は知らないという、そこに神秘性を感じて追い求めているのかなと思っています。

上映後、話をする小倉美恵子(2018.12.1)


由井:オオカミの護符という映画は、実はもう10年前の作品になるのですが、各地で上映会をしていただいている中で、公開当時の10年前と最近では、お客さんの反応もずいぶん変わって来ているなと感じています。当初はオオカミの神秘性、生態や絶滅の理由など生き物への関心が強かったようですが、最近では今日のご来場者のみなさまのご質問にもありましたが、オオカミそのものというよりは、オオカミとともに暮らしていた日本人とか、オオカミととともにあった暮らしとはどのようなものだったのか、なぜそうした暮らしを私たちは失ってしまったのかという根源的な問いにシフトしているようにも感じたのですが、いかがでしょうか。

石黒:オオカミというのは、私たちを守ってくれた存在と感じているのかもしれませんね。それにオオカミが実は身近な存在だったという驚きもあるのかもしれません。

由井:そもそも、なぜこのようなオオカミ信仰に関する調査をなさろうとしたのですか。

石黒:きっかけは、猫神を調査していまして、宮城県丸森町というところで祠を見つけて開けたら、オオカミ像が3体並んでいたり、他の場所でもオオカミを浮き彫りにした石碑も5、6基ぐらい見つけたので、これは何だろうと。色々調べてみたら、福島県飯舘村の山津見神社の御使いであるオオカミを偶像化したものだというのがわかりました。オオカミ信仰は全く知らなかったので石碑とか神社を調べたのがきっかけですね。震災前の平成22年の冬からですね。

由井:そこから村田町、ひいては東北にとって、何が見えて来ますか。

石黒:ひとつは、日本海側、秋田、山形ですね、よくオオカミ信仰はないと言われていたのですが、調べて見ると秋田にも三峯神社の分霊社が10数社ありましたし、江戸時代の三峯大権現という石碑もありました。要するに秋田県にも江戸時代に三峯信仰が入っていたということがわかりました。山形でも三峯の石碑を見つけまして、あと新潟県など、日本海側でも点在していることもわかりました。結果的に三峯神社分霊社が50数社あるということと、山津見神社の分霊社も北海道を含めて64社あり、その全てのリストを作ったわけです。すると東北地方にとって三峯神社の影響力が非常に大きいことがわかりました。それがなぜなのかは、よくわかりません。しかし、どうやら江戸時代の中頃から三峯の信仰が東北地方に入って来ているようであり、各地に分霊社や石碑が建てられ、明治に入っても引き続き建てられています。

写真:企画展「再び、オオカミ現る!-東北地方の狼信仰‐」 より


岩手県の例ですが、オオカミが人間や家畜を襲うのでオオカミ自体が人里に来ないようオオカミ除けということで、三峯の石碑や祠が建ててあり「牛馬安全」という文言が入っている石碑の例があることから、オオカミが及ぼす害も多かったのではないかと推測しています。

由井:それは逆を言えば、相当数のオオカミが当時、東北にいたと考えられるわけですね。

石黒:そうですね。江戸時代には各藩でオオカミを買い上げていましたし、明治時代に入っても各県庁で一体につき懸賞金をつけて買い上げていたので、どんどん殺して… 

由井:そういう記録があるのですか?

石黒:ええ、公文書が。宮城県の公文書にもそういった記述があります。多数のオオカミを捕獲していたことがわかります。人間や家畜に害を及ぼす存在にオオカミがなってしまったというわけですね。それは江戸時代の後期ぐらいからではないかと思います。それ以前はそういう捉え方はなかったようです。なぜかはわかりませんが…。ですからオオカミは二面性持つ獣ですね。一つは人畜を襲う脅威としての存在。もう一つは、山の神の御使いという存在で火防とか盗賊除けで、オオカミが守ってくれるという面ですね。その両極端な面を持っているところが関東のオオカミ信仰とちょっと異なるところかなという印象を持っています。

写真:企画展「再び、オオカミ現る!-東北地方の狼信仰‐」より


東北ではオオカミの被害というのは結構あったのだろうと。福島県の飯舘村に三峯信仰の祠がひとつあるんですけど、そこは馬の安全、馬がオオカミに獲られないように三峯の祠を祀ったという神社があります。それは江戸時代の天保年間ですけど。ですから江戸時代の後期からオオカミの被害が各地にあったようです。

もう一つは、東北地方の三峯神社や山津見神社は山の神ですが海の神でもあるんですね。海岸沿いの石巻ですが、津波の被害に遭ってしまった三峯神社があります。船舶の安全や魚の大漁などを祈願したのだと思います。村田町の隣り柴田町槻木には山津見神社の遥拝所がありました。鳥居や石灯篭は、桂島、塩竈港などの海沿いの人たちがお金を出して奉納している。「海上安全 大漁満足」などの文字も確認できます。

写真:企画展「再び、オオカミ現る!-東北地方の狼信仰‐」より


由井:改めて今回、オオカミの護符をご覧いただいて、この映画の特徴や見どころなどお気付きの点がありましたらお話しいただきたいのですが。

石黒:私はね、映画のプロローグというのですかね、たけのこ掘りの場面がありますが、あそこが好きなんですよね。(笑)

由井:それは意外ですね。なぜですか?

石黒:なぜなのかな…子供時代の郷愁なのかもしれませんが、子供の頃私は大阪に住んでいたことがありまして、竹林が近くにあったんですね。そこの筍が地面から出て来たら、ボキッと折って持って帰って、お袋に煮物とかにしてもらった思い出があるんですね。そういうことからかもしれませんが、私は竹林が好きなんですね。私は小倉さんところの土橋には行ったことがありませんが映画を拝見すると都会的な街並みが写しだされています。しかし昔はきっと竹林は広がっていたのだろうなと想像できますし、今でも竹やぶを綺麗に掃き清められていて、そういう人の姿と風景がね、結構好きなんですね。

由井:それは嬉しいですね。石黒さんですから、きっとオオカミ関係なのかなと想像していましたが、意外なお答えで驚きました。(笑)

石黒:オオカミの信仰は生活に密着していますよね。生活の一部になっている。ですから生活を抜きにしていきなり信仰に行ってしまうと、大切な部分が抜け落ちてしまうと思います。ですから私からすると、あのプロローグの筍づくりは重要なシーンだと思いますね。このオオカミの護符という映画の見どころだと思います。

由井:ありがとうございました。

地中に生えている筍を掘り出す柴原福治さん(神奈川県川崎市宮前区)
映画「オオカミの護符」より



アカデミック版DVD・上映権付き2枚組|本編を再編集した短縮版
「オオカミの護符」73分「うつし世の静寂に」60分

通常価格 54,000円(税込)から 36,000円(税込)に価格改定

主な購入先:
 アジアサイエンスカフェ、宮城大学、 村田町歴史みらい館、明治大学農学部、 環境問題翻訳チーム・ガイア、早稲田大学人間科学学術院、スルガ銀行二子玉川支店、川崎市宮前市民館、大倉山ドキュメンタリー映画祭実行委員会、常葉大学経営学部大久保研究室、日本女子大学人間社会学部現代社会学科、明治大学農学部、明治大学商学部、早稲田大学人間科学学術院、駿河台大学、国学院大学文学部、国立歴史民俗博物館、総合地球環境学研究所、川崎市市民ミュージアム、若狭三方縄文博物館、八ヶ岳美術館…



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