2015年11月19日(木)秋晴れの日の夕刻

川崎市図書館が毎年行っている「読書普及講演会」の講師にお招きいただきました。武蔵小杉の中原市民館にて『消えゆくもう一つの川崎を描く』と題して行った会は、「スライド+映画+おはなし」という新しいスタイルで臨みました。定員の300名を上回るお客様がお越し下さいましたが、皆さん熱心に心を傾けて下さっているのが伝わってきました。「あがり症」の私が、最後まで緊張することなく落ち着いて話ができたのは、会場の皆さんの温かな雰囲気と、企画・準備の段階から熱意をもって支えて下さった図書館のスタッフの皆さんのお蔭です。

のです。ある年は生田緑地の「かわさき宙と緑の科学館」を会場に『宮沢賢治の伝えたいこと』と題し、プラネタリウムを使って賢治が描いた星空を再現し、音と映像で作詞作曲も行っていた賢治の世界観を表現するという試みもされています。川崎市図書館スタッフの皆さんの感性と情熱は、私の講演にも大きな力を与えて下さいました。

講演の後、質疑応答の時間もじっくり取って頂きたくさんのご意見、ご質問に触れることができました。「質疑応答」はまさにライブ。ご質問の意図を捉えきれず全ての質問に上手くお答えできなかったことは悔やまれますが、とても「深みのある」ご質問も多く、これまでになく参加者の皆さんと交わり合う感覚を味わうことができました。とても印象深かったのは文庫本『オオカミ護符』を三度も読み返しているという方が、最も心に留めていただいている一文を朗読下さったことです。

「深い闇夜の世界とあいまって、祖母の語りは、幼い想像力を無限に膨らませてくれた。そして、同時に日々暮らしているこの空間にも、人間だけでなく得体の知れないものが存在し、彼らも意思のようなものを持ち合わせていると感じる素地が育まれた。「三つ子の魂百まで」というが、こうして幼い日に祖母が語ってくれた誦(そら)語りは、さまざまな物事の渦の中で、漂流してしまいそうな私の心を、しっかりと繋ぎとめてくれ、それが今の私を踏ん張らせている気がする。」(P30)

この文章はまさに私の原点であり、最も伝えたかったことの一つでした。哲学者の内山節さんが「戻りたい未来がある」と文庫本で解説してくださった世界観を端的に表している箇所だと思います。こうして講演会に足を運んで下さった方の朗読によって、自らの書いた文章に耳を傾ける経験ができたことは、この上ない喜びであり、大きな励ましとなりました。

小倉美惠子

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