倉本宣教授の講義に招かれ明治大学農学部で「オオカミの護符」が上映されるのは、今年で3回目となりました。今回は映画を見ながら気に留まったキーワードや場面を好きなように学生に書いていただき、それらの言葉をもとに講義を進めました。

彼ら言葉の中でとても印象的だったのは、「たけのこ作り」のシーンに関わるものが多かったことです。「たけのこ作り」はオオカミの護符という映画で中心的なシーンではありません。むしろ見る方によっては「なぜこの映画にたけのこ作りが入っているのか」最後までわからない人もいると思います。一言で言ってしまえば、「余計なシーン」と思われても仕方がない部分なのです。もちろん私たちにはそのシーンに込めた意図はあります。しかし見る側にその意図が伝わらなくても仕方がない、むしろわからない方が当たり前だと思いつつ、あえて入れたシーンなのです。その理由は次の機会に述べるとして、ここではそうしたシーンに彼らがなぜ気持ちを置いたのかということを考えてみたいのです。

農学部での上映会だからそうした農作業に彼らが目を向けるのは当たり前ではないかと思う人もいるかもしれません。しかし私にはそうは思えないのです。私は彼らが映画に残してくれた言葉を何度も読み返しました。そのうちに私の心に浮かんできたことは、「彼らが表面的な農作業だけを見ているのではない」ということです。たけのこを作っているおじいさんの佇まい、表情、身のこなし、言葉(思い)を感じ取っていたことはあるでしょう。しかしそれだけでもないと思います。

きっと、「確かなものにつながりたいという希求」が自分の中に意識的、あるいは無意識的にもあるのではないでしょうか。どこかにしっかりと根を下ろしたいと思っているのではないでしょうか。その上で自分なりの生き方で幹を太く育て、世界に向けて葉を広げていきたいと思っているのではないでしょうか。彼らには少なくとも我々の先祖の暮らしを「古臭い」とか「しがらみが多くて面倒臭い」として一掃してしまう意識はないとわたしは感じています。かといって、かつての暮らしに戻りたいと思ってはいないでしょう。しかし自分たちの今の暮らしに何か足りないものを敏感に感じとり、これまでの足取りを確かめ自分のものとし、未来へ歩みだす手がかりにしたいという試みがすでに彼らの中で始まっているように私には思えるのです。

由井 英


 

明大講義2

 

学生が書き留めたキーワードやフレーズ

  • 落ち葉掃きがお百姓さんの名残(アスファルトの上の落ち葉を掃いているお婆さんを見て)
  • ほぼすべての場面で高齢の方しかいなかったことが気になった。
  • なぜ肉食で危険なオオカミが祀られているのか不思議に思ったが、イノシシや鹿を追い払ってくれるという話に納得出来た。
  • たけのこは採るものだと思っていたので「作る」方法があると知り驚いた。
  • 埋め立てなどをして地形を変化させて暮らしやすくするのではなく、地形を生かして暮らしてきた。

 

 

明大講義4jpg

 

 

  • 昔の人々の知恵や考え方が今必ずしも必要かどうかはわからないが、環境を活かした生活を大切にする日本人らしさを失ってしまう気がする。
  • たけのこ堀りや御嶽講を見てもお年寄りが方が多く、このままでは文化が失われてしまう気がした。
  • 山には何があるのか人間には分からず、神さまがいるという思いがあったのだと思った
  • 昔は人と人との絆が最も大事だったと言っていたが今の時代でも言えることだと思い、印象に残った。
  • (昔の村社会は)「持ち回り、持ち寄り」で成り立っていた。

 

 

明大講義5jpg

 

 

  • 「今は米も豆も買ってやるんで神様が喜ぶかどうかね」と(お供え物を上げる時に)言っていた言葉が印象に残った。
  • 山に感謝の意味を込めて「お山さま」と呼んでいたことが心に残った。
  • (たけのこ作りをしているお爺さんの)「俺がいなくなると、草山になっちゃうんじゃねえかな」という言葉が残った。
  • オオカミは昔から特別な存在として扱われた一方で、人の手により絶滅に追いやられたことに疑問を持った。
  • お供えをするとき、ヒノキやアオイの葉の上に赤飯を乗せているのが印象的だった。

 

 

明大講義3

 

 

  • たけのこを育てるのに落ち葉を入れていたことに驚いた。
  • 土橋の人々は町中に暮らしながら百姓としての仕事をしていた頃の心情を失いつつあることがわかった。
  • たけのこ作りは手間がかかり、それゆえ受け継ぐ人がおらず伝統を守ることの難しさを感じた。
  • オオカミがイノシシから農作物を守ってくれていた。そこからオオカミを信仰するようになった。生態系と人の暮らしが繋がっていたんだと実感した。

※ 学生の真意を伝えるために筆者が加筆(カッコ内)、変更している箇所があります。

根埋け1

竹の根を掘り起こし、一定の高さに埋め直す「根埋け」という栽培方法。
土橋のタケノコは灰汁がなくて柔らかく「さしみ」でも食べられた。

 

Tamaca のおすすめ

YOU MAY ALSO LIKE