”東京漂流から40年”
宮前平の「新しい家と土地」は、いま…

 私はここで、三里塚の他にもう一つ、私の家と土地に似た一つの家と土地を取り上げてみたい。
 それは川崎市高津区宮前平である。
 1980年11月29日、一柳展也という19歳の少年が、金属バットで両親を殴り殺した事件のあった、あの土地である。
 つまり、「新しい日本の家」に生まれた育った80年代家族像を象徴的に顕在化してみせた土地と家である。
 奇しくも、というより十分に必然的に、この土地の開発は、昭和35年(1960年)、つまり私の家の生家が都市計画の名のもとに破壊されたその年に始まったのである。政府の政策と一体となった都市開発構想のもと、東急建設は巨大なプロジェクトを組んで、この付近一帯の農地を買収し、「日本の農家」を崩し、「田畑」を根こそぎにした。
 この土地はかつて、あの三里塚と同じように普通の農村であった。それは、現在の川崎市高津区宮前平ではなく、神奈川県橘郡宮前村大字土橋と呼ばれていた。

藤原新也 著「東京漂流」より

「土曜日の会」第4話 2024.10.26 開催
ゲスト:藤原新也
聞き手(朗読):小倉美惠子