ものがたりをめぐる物語

前編 地下の国へ / 後編 再び地上へ

全2部作|2022年 2月完成(前編)、7月完成(後編)
前編:地下の国へ(61分)
後編:再び地上へ(61分) 
助成支援:公益財団法人トヨタ財団

昔に戻りたくはない。

さりとて このまま進みたくはない…

「人はものがたりに何を求めているのだろうか。」

臨床心理学者の河合隼雄や神話学者のジョゼフ・キャンベルの「物語論」に触発され、映画の製作を開始した。信州に鎮座する諏訪大社の縁起物語とされる「甲賀三郎」伝説を前後編2部作に渡り、読み解いていく。

甲賀三郎は、蓼科山(八ヶ岳)の人穴に消えた姫を救い上げた後、「地下の国」を独りでめぐることになる。三郎は様々な国々を訪ね歩いた末に、不思議な女と出会い、結ばれる。やがて子を生し、三郎は地下の国で幸せな日々を過ごすようになる。ある日三郎は、地上の姫のことを思い出し、妻や子にその気持ちを打ち明け、地上へ戻る旅に出かける。様々な困難を克服して三郎は再び地上に戻るが、池の水面に映る自分の姿を見て、愕然とする。蛇に姿を変えていたからだ。

映画の前編では、現代社会に横たわる「対立する価値観」を諏訪を舞台に浮かび上がらせる。後編では、作品の舞台を陸前高田市に移し、「対立を超えていく」手がかりを探っていく。「甲賀三郎」伝説から着想を得た「山、人穴、地上と地下、蛇、壁」などのキーワードを紐解きながら、明治以降の日本の近代化を辿り、西洋近代文明と日本古来の文化とにおける「自然や風土」への関わり方の違いに焦点を当てていく。

西洋近代文明は科学的客観性を重んじ、自然や風土を「観察する」ことで一旦人間から切り離し、人間の社会を中心に据え、その周りに自然や風土を配置することで関係を構築し直す世界観を持つ。その一方で、明治の近代化以前の世界観が底流している「ものがたり」は、むしろ自然や風土を中心に置き、それに人間が寄り添いながら、主客は模糊として荒唐無稽にさえ思える関係を築いてきた。科学はものがたりの根幹とも言える風土との「曖昧」な関係を許容できないが、ものがたりもまた科学の特徴である「分析」によって人と風土が切り離されていくことを受け入れない。

明治の急激な近代化は私たちの社会や個人の心に大きな歪みを生み出し、その溝は埋めきれないまま、むしろ深まっている。明治の近代化が孕む問題に向き合うことは、もはや日本のみならず世界が直面している様々な価値観の相剋を超えていくために避けられない。今や誰もがどちらかの価値観を「選択する」ことで解決は得られないと気づいている。一体、この先に私たちの進む道はあるのだろうか。映画を観る全ての人に問いかけていく。

●製作助成: 公益財団法人トヨタ財団
●協賛:ホテル尖石、ライフプラザ マリオ
●協賛支援:柴原みどり、宮越博子、速渡普土、 飯島聡子、もりしたかずこ、小倉弘之、小倉麻由子、島正孝、中村真知子、野本紀子、堀内幸春、佐藤由紀子、本木勝利、高見俊樹、牛山一貴、飯田千代、飯田なつよ

・監督・編集:由井 英
・制作総指揮: 小泉修吉、小倉美惠子
・撮影: 秋葉清功、伊藤碩男、筒井勝彦
・録音: 高木創
・語り: 清水理沙、糸 博、 小倉美惠子 
・描画: 近藤圭恵
・演奏: 大森晶子(ピアノ)、 尾尻雅弘(ギター)
・音響効果: 高津輝幸、高木創
・レコーディングスタジオ: TAGO STUDIO
・MAスタジオ: AQUARIUM、StudioGONG
・出演: 河野和子、塩川悠太、荻原節子、オギュスタン ベルク、山中康裕、宮坂清、 岩本保二、上原勉、中村桂子、藤森照信、松田富美夫、近衛はな
・撮影協力: 北沢一行、熊澤祥吉、昔ばなし語りの会あかり、佐久市佐久城山小学校、東京ステーションホテル、正福寺、本御射山神社、八劔神社、諏訪市博物館、 井戸尻考古館、茅野市尖石縄文考古館、上桑原牧野組合、ヒュッテ御射山、八十二文化財団、おかん塚古墳、守矢早苗、金野純一、菅野広紀、JT生命誌研究館、神長官守矢史料館、空飛ぶ茶室、高過庵、陸前高田市横田町本宿橋協力会
・写真提供: 阿部史恵、市川一雄、佐々木寿美映、須藤功、日経PB/ナショナル・ジオグラフィック、タクミ印刷有限会社、河北新報、紺野利男、渡辺雅史、小倉美惠子、友澤悠季、小林信雄、平尾隆信、中野貴徳、八劔神社、諏訪市博物館、八ヶ岳美術館
・画像 提供: 山梨県立博物館、国立国会図書館
・映像提供: 神奈川県川崎市、松日橋落成式 収穫祭
・新聞記事: 岩手日報、東海新報、
・資料提供: 恩地薫|シドモア 桜の会、友澤悠季「広田湾埋め立て開発計画をめぐる人々の記憶ー岩手県陸前高田市を中心として」、詩集「ふたつの扉」目黒裕佳子
・物語出典:「甲賀三郎」 限定復刻版佐久口碑伝説集南佐久篇 |語り:岡部いちの採録より改編
・編集・原稿:=諏訪地方= 市川一雄、河西節郎、宮坂清、高見俊樹、=陸前高田市= 及川裕俊、河野和子、
河野光枝、紺野悟、佐藤一男、松野明男、タクミ印刷有限会社、// 近衛はな、佐々木寿美映、友澤悠季、中村桂子、藤森照信、山中康裕

(前後編を合わせて)


オオカミの護符

〜山びとと里びとのあわいに〜

〜山びとと里びとのあわいに〜製作支援:文化庁/後援:川崎市 川崎市教育委員会
本編:114分/2008年製作 • アカデミック版(再編集短縮版):73分

・平成20年度文化庁映画賞 文化記録映画優秀賞
・アース・ビジョン第17回地球環境映像際 アース・ビジョン賞

ニホンオオカミは絶滅したという。しかし、関東のお百姓は今もなお、お狗さまのお札の前で頭を下げ、祈っている。

オオカミは、なぜお札に描かれたのか。素朴な問いを手掛かりに関東平野を囲む山々を訪ね、人の話に耳を傾ける。しだいに映画は、大都会のアスファルトの下に眠る関東の古層の世界へと観る人を誘う。宝登山(長瀞町)の麓では紙のお札ではなく、木製の「お箱」に描かれた御眷属様(オオカミとされる)を貸し借りしている。奥多摩の旧家の神棚には、オオカミの頭骨や肩甲骨が祀られていた。最後に三峯神社に神領民として暮らしてきた古老が、冒頭の素朴な問いにひとつの答えを与えてくれる。


うつし世の静寂に

製作支援:公益財団法人トヨタ財団
後援:公益財団法人八十二財団 佐久市教育委員会
本編:96分/2010年製作
アカデミック版(上映権付き):60分

自然との共生という「おごり」ではなく、その営みに人がまず身を委ねる。

人の暮らしは今も昔も自分の力や家族の支えだけでは成り立たず、様々な人々の助けを必要とする。みんなで力を合わせて物事を達成するときに、我々の先祖は何を拠り所にしてきたのか。川崎市宮前区初山では今も様々な「講」が組まれ、人々が支え合いながら暮らしている。映画は最後に明治時代に神社合祀により社を失った「杜(もり)」の中で獅子舞が再現されていく。三世代(10代から80代まで)が同じ舞を繰り広げる姿に、講によって育まれてきた人々の安らかな心情が浮かび上がる。


鴻巣の赤物


ー民俗技術の記録ー


文化庁委託 平成22年度ふるさと文化再興事業「地域伝統文化伝承事業」
企画制作:鴻巣の赤物保存会
本編:28分(非売品)/平成22年度


かつて家には子供の健やかな成長を見守る人形や置物がたくさんあった。鴻巣の赤物(国指定重要無形民俗文化財)は子供の玩具であり、赤い色は疱瘡(天然痘)除けの意味もあったという。映画は、桐の大鋸屑を固めて作られる鴻巣の赤物の製作技術を丹念に記録している。


奈良町の会所


ーうけつぐ祈りとつどいー


文化庁地域伝統文化総合活性化事業 継続事業平成23年採択
奈良町の「会所」と信仰行事撮影・調査事業成果
企画制作:社団法人奈良まちづくりセンター
本編:48分(非売品)/平成23〜24年度


奈良町の共同体の要として機能してきた会所。会所内には神仏を祀る祠堂がある。町内自治の決定は神仏の御前において神仏に誓って遵守されてきた。人々は厳粛な法要や神事の後の直会、御斎において、神仏とともに一味同心する。村に「講」があるように、町の精神的絆帯に「会所」がある。


海外番組

 

狮城有约 | 日本璀璨黄昏

2019年放送 およそ10分×5本
シンガポール Channel 8 News 日本特集番組

日本人の退職後、老後の過ごし方に焦点を当てた番組